検索連動型広告(リスティング広告)の運用に携わったことのある、ウェブマーケティングの担当者であれば1度は気になったことがあるのではないでしょうか。
リスティング広告のクリック単価(CPC)はどのように決まっているのか。
「最近どんどんCPCが高騰してきている気がする・・・」
「このクリック単価で競合も本当に広告オークションに入札しているの?」
「広告代理店の人が、競合が入札を強めていると言ってくるのだが、ホントかな・・・」
実際にクリック単価に関してこのような疑問や悩みを抱えている担当者の方は多いのかと思います。
リスティング広告をはじめとするインターネット広告では、
その成果を測るKPIとして、多くの場合コンバージョン単価(CPA)が用いられています。
そのCPAを下げるためには、クリック単価をできるだけ下げておく方が望ましいといえます。
では、本来マーケティング担当者が「クリック単価を下げたい」と思っているにもかかわらず、
クリック単価が上昇してしまうのはなぜなのでしょうか。(クリック単価が上がる要因として、「競合がクリック単価の入札を強めている」という話はよく聞きますが、「クリック単価を下げたい」という状況は競合企業にとっても同じはずなのにです。)
今回は、そんなウェブマーケティングの中でも重要な指標であるクリック単価が、なぜ高騰するのかについて、ゲーム理論を使って一緒に考えてみたいと思います。
【目次】
- クリック単価がウェブマーケティングで重要なKPIである理由
- ゲーム理論でひも解くクリック単価の高騰
- 囚人のジレンマとは
- 広告担当者のジレンマ:こうしてクリック単価(CPC)は上昇する
- まとめ
➀クリック単価(CPC)がウェブマーケティングで重要なKPIである理由
冒頭にあるように、リスティング広告やディスプレイ広告などをはじめとする多くの運用型広告では、その成果を表す指標としてコンバージョン単価(CPA)をKPIとしています。コンバージョン単価とは、広告の目的であるコンバージョン1件あたりを達成するために掛かった費用のことです。
そのため運用型広告の効果を高めていくためにはコンバージョン単価を下げるように調整していくことが求められます。
コンバージョン単価は、
CPA = COST / CV
の数式で表すことが出来ます。
この式からもわかるようにコンバージョン単価を引き下げるためには、
分子である費用(COST)を下げるか、分母であるコンバージョン(CV)を増やすかということになります。
そこで、この式をさらに分解してみていくことにしましょう。
費用はクリック単価で決まっていますので
COST = CPC × クリック数
と表すことが出来ます。
また、コンバージョン数は、クリック数からのコンバージョン率で表すことが出来ますので、
CV = CVR × クリック数
と表すことが出来ます。
この式を組み合わせて考えると
CPA =(CPC × クリック数) / (CVR × クリック数)
となりますので、分子と分母にあるクリック数が相殺され
CPA =CPC / CVR
と表すことが出来ます。
つまりCPAを下げるためには、分子であるクリック単価を引き下げる必要があるといえるのです。
②ゲーム理論でひも解くクリック単価の高騰
では、多くのマーケティング担当者が広告の費用対効果を高めていくためにはCPAを下げなければいけない、つまり広告のクリック単価を下げなければいけないと理解しているにもかかわらず、クリック単価は上昇してしまうのでしょうか。
全てのプレイヤーがクリック単価を下げたいと思っているのであれば、クリック単価は上昇しないはずです。
この理由は、経済学の中で論じられているゲーム理論の《囚人のジレンマ》でひも解くことが出来ます。
囚人のジレンマとは、プレイヤー同士が協力しない非協力ゲームで、お互いがそれぞれにとって良いと考えられる選択肢を選ぶことによって、互いに協力した場合よりも悪い結果を選択してしまうというモデルになります。
◆囚人のジレンマとは
囚人Aと囚人Bはそれぞれ別の部屋で尋問されており、
下記のような条件が与えられています。
- ・自分が自白し、相手が自白しなかった場合⇒自分は無罪、相手は懲役10年
- ・相手が自白し、自分は自白しなかった場合⇒自分は懲役10年、相手は無罪
- ・自分も相手も自白しなかった場合⇒証拠不十分により2人とも懲役3年
- ・自分も相手も自白した場合⇒2人とも懲役5年
2人はそれぞれ別々に尋問されているため、意思疎通は出来ず互いにどのような選択をするかはわかりません。また2人が取れる選択肢は「自白する」、「自白しない」の2つになります。
このような条件の中で2人がどのような意思決定をして選択肢を選ぶのかというのが
囚人のジレンマの考え方です。
では、囚人Aがどのような合理的な選択をするのかを見ていきましょう。
まず、囚人Bが「自白をした」場合、囚人Aが「自白をしない」を選択すると、囚人Aは自分のみ懲役10年となります。一方、囚人Bが「自白をした」場合、囚人Aが「自白をする」を選択すれば、2人が自白をすることになり囚人Aは懲役5年となります。
次に、囚人Bが自白をしない場合を見ていきましょう。囚人Bが「自白をしない」場合、囚人Aが「自白をしない」を選択すると、2人とも懲役3年となります。また、囚人Bが「自白をしない」場合、囚人Aが「自白をする」を選択すれば、自分は無罪になり囚人Bのみ懲役10年となります。
つまり、囚人Aにとって、囚人Bがどちらの選択肢を選択したにせよ「自白する」という選択の方が良いと言えます。
※ゲーム理論では、この囚人Aにとっての「自白する」という選択のように、相手のプレイヤーがどのような戦略を選択したとしても、利得の高い戦略となっている戦略を支配戦略と呼びます。
この合理的な選択は囚人Bにとっても同様であるため、囚人Bにとっても「自白する」という選択の方が良い選択となり、結果的に2人とも「自白をしない」を選択すれば、2人とも高い利得を得る選択があるにもかかわらず、2人とも「自白する」という選択をしてしまうということになります。
このように、プレイヤー同士が各々にとって最良の選択をすることによって、互いに協力していた場合よりも、悪い結果を選択してしまうことを《囚人のジレンマ》といいます。
《囚人のジレンマ》を理解していただいたところで、この《囚人のジレンマ》を《広告担当者のジレンマ》に置き換えて考えてみましょう。
◆広告担当者のジレンマ:こうしてクリック単価(CPC)は上昇する
ユーザーがGoogleやYahoo!で検索した際に、その検索結果に広告を出稿する検索連動型広告(リスティング広告)の広告枠では、一般的に競合他社の広告よりも上位にある広告枠の方がCVRが高くなると言われています。広告掲載順位は広告の表示機会が発生するたびにオークションで決定されていますが、その掲載順位を決める要素の1つが、CPCの入札単価になります。
⇒掲載順位の決め方について、もっと詳しく知りたい方はコチラを参照ください。
リスティング広告の掲載順位を決める《広告ランク》ってなに?
あらためて、なぜ多くのマーケティング担当者がクリック単価を上げたくないと考えていながらも、CPCを釣り上げるように広告オークションに入札してしまい、「CPCを上げる」という選択をしてしまうのでしょうか。
その理由は、ここまで見てきた《囚人のジレンマ》のモデルを用いることで説明することが出来ます。
◆広告担当者のジレンマとは
広告担当者には下記の条件が与えられています。
- ・自社がCPCを上げ、競合がCPCを維持した場合 ⇒自社のCVが増加、競合は減少
- ・自社がCPCを維持し、競合がCPCを上げた場合 ⇒自社のCVが減少、競合は増加
- ・自社がCPCを上げ、競合もCPCを上げた場合 ⇒自社、競合ともにCVに変化なし
- ・自社がCPCを維持し、競合もCPCを維持した場合 ⇒自社、競合ともにCVに変化なし
※広告の掲載順位を左右するCPC以外の要素は変動がないものとします。
では、先ほどと同じようにそれぞれのプレイヤーが、どのように合理的な選択をするかを見ていきましょう。まず、競合が「CPCを上げる」を選択した場合、自社が「CPCを維持する」を選択すれば、競合の広告の掲載順位が高まり、優位に広告掲載をすることが出来るため、競合のCV数が増加し、自社のCV数が減少します。一方、競合が「CPCを上げる」を選択した場合、自社が「CPCを上げる」を選択すれば、競合と自社の掲載順位は変わらないため、競合も自社もCV数に変化はありません。
次に、競合がCPCを維持することを選択した場合を見ていきましょう。競合が「CPCを維持する」を選択した場合、自社が「CPCを維持する」を選択すれば、競合と自社の掲載順位は変わらないため、競合も自社もCV数に変化はありません。また、競合が「CPCを維持する」を選択した場合、自社が「CPCを上げる」を選択すれば、自社の広告の掲載順位が高まり、優位に広告掲載をすることが出来るため、自社のCV数が増加し、競合のCV数が減少します。
つまり自社にとって、競合が「CPCを上げる」、「CPCを維持する」のどちらの選択をしてきたにせよ、「CPCを上げる」という選択の方が利得が高いと言えます。さきほどの《囚人のジレンマ》と同様に競合にとっても「CPCを上げる」という選択が支配戦略になっているため、自社・競合ともに「CPCを上げる」という選択を選ぶことになります。
③まとめ
いかがでしたでしょうか。
リスティング広告のクリック単価は近年高騰傾向にあります。運用型広告の費用対効果を高めるためには本来、クリック単価は低い方が望ましいです。それにもかかわらずクリック単価を吊り上げて入札してしまうという広告主の一見不合理にもみえる行動は、経済学で用いられている《ゲーム理論》でひも解くことができるでしょう。
「競合が入札を強めているから、自社も入札を強めなければいけない」
という心理状況は、競合にとっても同じ状況であることに間違いはありません。しかし、この状態はお互いにとって不利益な状況になりかねず、ジレンマに陥っている可能性が高いと言えます。このような場合はやみくもにクリック単価を引き上げようとせず、それ以外の方法で効果を上げる方法はないかと立ち止まって考えてみることが重要です。
今回みてきた《囚人のジレンマ》のような事例は、インターネット広告のクリック単価だけでなく、企業間の商品の値下げ競争や店舗の出店戦略にも見ることが出来ます。実際のビジネスの中で、競合も自社も不利益を被っていつと感じられた際は、ぜひ一度《囚人のジレンマ》の思考プロセスを思い浮かべてみると良いかもしれません。
これからのウェブマーケティングをどのようにしていくべきかをお悩みの際は是非ご相談ください。