インターネット広告が溢れる今だからこそ考えたい、広告とは何か。

新聞、雑誌、テレビ、ラジオといったマスメディアが主流だった時代から、インターネット社会へ移行してきて、私たち生活者にとって情報のあり方や、情報との接し方というのは大きく変わってきました。その溢れるほどの情報の中で、私たちが目にする《広告》のかたちも変化し続けています。

特に、インターネットを媒体としたインターネット広告では、スマートフォンの普及や技術の発展とともに、そのかたちや配信手法が、数え切れないほど多くなり、マーケティング戦略の立案を困難なものにしてきています。

このような、状況だからこそ、今一度、《広告とは何なのか》ということを改めて考えてみる必要があるのではないでしょうか。

広告》というものを、しっかりと捉えておくことで、広告の役割や活用の仕方が見えてくるかと思います。是非、参考にしていただければと思います。

【目次】

  1. 広告とは何なのか
  2. 広告の定義
    • 有料であること
    • 人を介さない
    • 製品、サービス、アイデアを紹介、勧めるもの
    • (広告主が明らかであること)
  3. 広告の機能、広告に求められていること
    • 情報伝達機能
    • 説得機能
    • 情報強化機能
    • ブランド構築機能
  4. まとめ

①広告とは何なのか

広告とは、その文字が示しているように「広く告げる」ことです。しかし、ただ情報を伝えるだけでは「広告」とは言えません。そこには人目を惹いて、興味を持たせることが必要になります。

広告を英語で表す場合、AdvertisementAdvertisingという2つの言葉があります。この2つの言葉はどちらもadvertiseという動詞の名詞形になります。advertiseの語源を見てみるとad-は「○○の方に、○○に向かって」という方向をあらわす接頭語で、vertiseとは「向きを変える」という意味の言葉になります。つまり、advertiseとは「○○の方に振り向かせる、興味を向かせる」というのがもともとの語源の持つ意味になります。

Advertisementは主に、広告物(画像や映像など広告としての制作物)を指す場合が多く、
Advertisingは主に、広告活動全般を指す場合が多いです。

因みに余談ですが、日本に新聞というメディアが登場したのは、
1861年(文久元年)の長崎で英国人が発行した

The Nagasaki Shipping List and Advertiser

という英字新聞が最初だとされています。ここにある“Advertiser”というのが、日本が初めて目にした「広告」と言う文字です。その後、明治頃ころからAdvertisement、Advertisingに対応する訳語として「広告」という日本語が定着していったと考えられています。

※それまでは、「引札」と呼ばれるタイプのチラシが一般的でした。

新聞と広告の歴史についてもっと詳しく知りたい方はコチラ
新聞というメディアの誕生~日本の新聞広告の歴史~

②広告の定義

広告とは、様々な定義がありますが、その定義として広く知られているのはアメリカマーケティング協会(AMA)による定義でしょう。AMAの定義では「広告とは、企業、非営利団体、政府系機関、または個人による、製品・サービス・アイディアを特定のターゲットに伝達するための告知やメッセージである」となっています。

【引用】

“Advertising is the placement of announcements and messages in time or space by business firms, nonprofit organizations, government agencies, and individuals who seek to inform and/or persuade members of a particular target market or audience regarding their products, services, organizations or ideas”

しかし、この定義では、『企業から特定のターゲット層に向けた情報を伝達するもの』という広義の意味で広告を捉えているため、どこまでが広告なのかはっきりしていません。

そこで、インターネット社会の中での《広告》を、広報やPR、もしくは近年に注目されているアーンドメディアやオウンドメディアと区別する為には、広告を狭義の意味合いで捉えていく必要があります。

広告を狭義の意味合いで捉えているものとしては、下記のような基準が一般的です。

  • 有料であること
  • 人を介さない
  • 製品、サービス、アイデアを紹介、勧めるもの
  • (広告主が明らかであること)

それでは、この狭義の意味合いで捉えた広告の定義を、少し細かく見ていくことにしましょう。

◆有料であること

広告を他の宣伝活動と明確に区別する基準がこの「有料であること」です。広告とは、新聞にしても、テレビCMにしても、またはインターネットメディアにしても、ある媒体の特定のスペースを、お金を出して買い取ることで、掲載が出来るものです。有料である(金銭的なやり取りがある)ということはある意味で、その掲載がコントロール可能な宣伝ともいえます。

広告とよく混同されやすいものとして、パブリシティがありますが、パブリシティでは新聞社、出版社、TV局などに、情報の素材を提供し、取り上げてもらうことを目的とはしているものの、最終的に取り上げられるか否かは、それぞれの報道機関の判断になり、広告主の側からコントロールすることはできません。もしも、報道機関に対して対価を支払い情報の掲載をコントロールしてしまうのであれば、第三者の判断による評価という信頼性は失われ、パブリシティという考え方からは外れてしまうでしょう。

「有料であること」=「掲載のコントロールが可能」ということが、広告を定義するものの1つとなります。

・ペイドメディアという広告

また、「有料であること」は、トリプルメディアという観点からも、他の宣伝活動と広告を切り分けることを可能にしています。トリプルメディアとはデジタルマーケティングの観点から、メディアのあり方を3つに分類するものです。トリプルメディアには、自社で管理をしているオウンドメディア、SNSや口コミサイトなどユーザー間のコミュニケーションで成立しているアーンドメディア、そして有料で出稿することのできるペイドメディアがあります。

ペイドメディアは有料で出稿できる広告を指しますが、逆の見方をすれば、情報の掲載に費用が発生していない自社のECサイトやコーポレートサイトなどのオウンドメディアや、ユーザー自身が口コミで商品について評価しているアーンドメディアは、ペイドメディア(広告)とは定義されないということになります。

◆人を介さない

広告を定義づける際に、重要な要素の2つ目は「人を介さない」ということです。広告とは情報を伝達するためのものですが、新聞にしても、テレビCMにしても、インターネットメディアにしても、1度コンテンツを作成してしまえば、後は人の手を介さないで、情報を伝達することが出来ます。

人の手を介する情報伝達の手法は、マーケティングのプロモーション戦略の中では人的販売とされており、広告とは区別された手法になります。人的販売では販売員などが対面でコミュニケーションを取ることが可能であり、それぞれのニーズに合わせた対応が可能で、複雑な情報伝達も可能である一方、販売員の個人的な能力に依存してしまう点が特徴として上げられます。

広告では、人の手を介さないため、販売員個人の能力に依存することなく、多数のターゲットに対して情報伝達をすることが可能になります。

◆製品、サービス、アイデアを紹介、勧めるもの

広告には、「情報を伝達する」という役割があります。広告には、伝えるべき情報があることが必要です。もし、伝えるべき情報がなければ、それは広告ではないということになります。

例えば、社名やロゴの入ったボールペンなどは、上記の基準でいうと、有料で人の手を介さないモノではありますが、そのことで情報を伝えているわけではありません。このようなプロモーション手法はノベルティと呼ばれ、販売促進のうちの1つの手法となり、広告とは区別されています。

広告が伝える情報は、製品やサービスの内容だけでなくアイデアや価値観など、広範囲にわたっています。

広告は扱われる情報によって下記のような2つのタイプに大別されます。

・製品広告

製品広告とは、商品やブランドの性能・機能・競合優位性、などの商品そのもの情報を伝える広告のことです。

・企業広告

企業広告とは、企業のもつ哲学や価値観を伝えるためのものであり、企業としての再評価やイメージアップを目的とした広告のことです。

広告では、製品広告にしても、企業広告にしても、ターゲットに対して情報を伝えることで、行動や価値観の変化を起こさせることを目的としています。

◆(広告主が明らかであること)

多くの書籍やマーケティング関連のウェブサイトでは、この「広告主が明らかであること」が、広告を定義づける要件のうちの1つとして挙げられていますが、ここではあえて括弧を付けておきました。というのも、近年ではこの「広告主が明らかであること」という要素が、広告にとってさほど重要な要素ではなくなってきているからです。

この傾向は、インターネット広告で顕著に表れています。

インターネット社会の発展は、良くも悪くも情報の量を増大させ、ユーザーにとって情報が溢れ返っている状態を生み出しました。その結果、ユーザーは余計な情報をできるだけ排除しようと行動をするようになり、広告を目にしただけでは、なかなか反応してくれないようになりました。つまり、ユーザーの自然な行動を阻害するような広告は邪魔な情報でしかなくなってきたのです。

こうした背景から、近年では、ユーザーに違和感やストレスを与えないよう、上手くメディアに溶け込むような広告のタイプが増えてきています。このような広告は一見しただけでは「○○という企業の広告だな」ということが分からないものが多く、掲載先のメディアに上手く馴染んでいることからネイティブ広告と呼ばれています。

※ネイティブ広告には、SNSやニュースメディアのフィード上に表示されるインフィード型のものや、「あなたにおすすめの記事はこちら」というような形で表示されるレコメンド型など様々なタイプが存在しています。

※ネイティブ広告では、ユーザーを騙すものではないため「広告」や「PR」などの表記で、メディアの純粋なコンテンツと広告を区別しています。

従来の少品種大量生産の時代のマーケティングの中では、企業名や商品名を覚えてもらうことがマーケティング上重要でした。その結果、広告の役割として、商品名や企業名を覚えてもらうということがあったので、「広告主が明らかであること」ということが1つの重要な要素となっていました。

しかしながら、現在のインターネットを活用したマーケティングでは、ユーザーにとってストレスフリーで情報提供をすることの方が重要であると考えられる場合が多く、「広告主が明らかであること」がかつてほど重要ではなくなってきているといえます。

③広告の機能、広告に求められていること

広告を効率的に活用していく為には、広告にできること、広告の機能をしっかりとおさえておく必要があります。細かく分類していくと、広告には様々な機能がありますが、抑えておきたい広告の機能は、大きく4つにまとめられます。

【広告の機能】

  • 情報伝達機能
  • 説得機能
  • 情報強化機能
  • ブランド構築機能

◆情報伝達機能

広告には、広告主が生活者へ伝えたい情報を伝達する機能があります。商品(サービス)はどういうもので、それを利用するとどういう効用(メリット)が得られるのか。また、キャンペーンやイベントの告知など、多くの人々に知ってほしい情報など。広告を通して、生活者に情報提供をし、興味を持たせることが可能です。

◆説得機能

広告には、興味関心を持ってくれた生活者にたいして、実際に行動を起こすよう説得する機能があります。例えばテレビCMでは、商品のことを知ってもらうだけでなく、「この商品を使ってみたい!」と思わせることが出来ます。それは、あたかもセールスマンが説明してくれているかのような機能です。

・選挙管理委員会の広告

説得機能の分かり易い事例として、選挙管理委員会の広告があります。

衆院選や統一地方選などで、投票所へ行くように促す啓発ポスターでは、○月○日に投票があるということを知らせるだけでなく、実際に投票所へ行って投票するように説得しています。

日本の明日を、私たちで決めよう。

※2017年第48回衆議院議員総選挙

投票しなきゃ、私たちはずっと無言のままだ。

※2019年第19回統一地方選挙、神奈川県

有名人を起用し、強いキャッチコピーを載せることで、とても印象的で強い説得力を持たせることが出来ます。

◆情報強化機能

広告には、消費者が購買行動を起こした後に、その行動を正当化させる機能があります。本来、一度購買行動を起こした消費者にとって広告の情報は不要なものであるはずです。しかし、消費者は消費行動の後でも広告の情報を必要としていることがあります。

それは、一般的に消費者は消費行動をとった後も、「この商品を買って良かったのだろうか・・・あっちの商品の方が良かったのではないだろう・・・」と不安になるからです。このような状態は認知的不協和と呼ばれています。認知的不協和に陥った消費者は、自分の行動が正しかったと思うため(思いこませるため)、広告の情報を再び見てしまうのです。

このように、広告には、購買行動を起こした後でも、その購買行動を正当化し、満足させる機能があります。

◆ブランド構築機能

広告には、企業や商品のイメージや世界観を伝え、その企業や商品のブランド構築を行う機能があります。企業戦略においてブランドは資産として考えられているため、どのように構築していくかが非常に重要になってくるのですが、このブランドという資産(ブランドエクイティ)を構成している要素の1つに、ブランド連想というものがあります。

ブランド連想とは、生活者がそのブランドに関して、ロゴや品質、音や味など、イメージなど想起し連想できるものの集合になります。このブランド連想では一般的に、連想される事柄が多い方がブランド価値にとって望ましいとされています。

広告を活用することで、まだ実際にブランド体験をしていない生活者に対しても、イメージや世界観を伝え、ブランド連想を強化することが出来ます。

④まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は《広告》の言葉の意味から、《広告》の定義と機能を見てきました。

江戸時代の末期に、新聞というメディアが入ってきたことにより、大衆に告知するというマスメディア型の広告という新しいタイプの広告が登場し、日本の情報伝達のスタイルは大きく変わったといえます。

そしてまたいま、私たちの生活はインターネット社会の発展とともに、情報との接し方が大きく変わってきています。その溢れる情報の中で、《広告》というものも再びそのスタイルを変えようとしているのではないでしょうか。

インターネット広告の登場により、従来型のマスメディアにはなかった価値観が生まれてきているのです。

そのような今だからこそ、《広告》と言うものが何なのかを改めて考えて見る必要があるかと思います。

《広告》とは何かを改めて考えることで、今までにはない発想のマーケティング戦略の立案が可能になるはずです。

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